元清水高女生が、「巴川界隈」公演に挑む

巴川の河口は、古くから清水湊の船着場として繁栄し、廻船問屋などあって賑わっていた。
この巴川の左岸は、芸者置屋、小料理屋、遊廓が軒を連ねる三業の地でもあった。

   
明治期の巴川河口(静岡県立中央図書館蔵)


川の辺りにある水神社の祭礼の夜に流す燈篭流し・・・・ほのかな明かりがゆれる川辺にたたずむ女、終戦の混乱期、少女時代をここで過ごした1人の女(千紗)の回顧から舞台は始まる。

戯曲「巴川界隈(かいわい)」は、清水市出身の小島真木さんの作品で、劇団「静芸」が創立50周年記念作品として、平成10年静岡市で公演された。
この公演を見た県立清水西高第42回生(旧清水高女、昭和32年卆)たちは、「清水の一昔前の話、清水の人がつくった戯曲、ぜひ清水で公演を」と同窓生で実行委員会を立ち上げた。

「巴川界隈(かいわい)」 清水市民文化会館


出演交渉、ホスターづくり、チケット販売など「60過ぎのオバサンが生まれてはじめての汗をかきました。作者が同窓生だったのも原動力でした」と大石不二代実行委員長は話す。
実現が危ぶまれていたが平成13年11月24日(土)25日(日)の2回公演は、実行委員の苦労が実って、ほぼ満席の盛況である。


舞台は終戦直後の元芸者置屋「岸もと」、巷はまだ混乱のなか、進駐軍のお座敷帰りの芸者衆の姿も復活はじめていた。

父と母の鈴、千紗と祖母 千紗と兄


実の父親と対面する千紗、元地主は農地開放で土地を失い、昔の面影はない。生みの母親鈴は「岸もと」の養女、千紗には腹違いの兄がいて複雑な家庭である。

昭和23年秋、レコード音楽が鳴り、東京ブギウギを踊る千紗と友人、こうした最中、まだ何をするか定まらない鈴に追い討ちをかけるように「夫と手を切れ」と男の妻から要求されたり、また息子の不行状にも頭の痛い日々であった。

東京ブギウギを踊る千紗 川面を見つめる鈴


やがて朝鮮戦争が勃発、日本は特需景気に沸いていた。鈴は小料理屋をはじめていたが、景気の波に乗れなかった。原因は、鈴の浮気である。
昔馴染みの客との噂が、「岸もと」から客を遠ざけていた。
囲われものとして、店を任されていた鈴は、なじみ客との結婚を夢見ていた。

しかし、回りの裏切りで、浮気は旦那に露見してしまった。「花柳界の女は、素人にはなれないんだ」という旦那に反抗して、男との愛を貫こうとする鈴だが、肝心の男は事業に失敗し姿をくらましてしまった。

華やかな芸者衆 男に追いすがる鈴


男に逃げられ悲哀にくれる鈴は、睡眠薬を飲み自殺を図った。


病床の母親に娘の千紗はいう。「お母さんは、人に頼って夢をみていたんだわ。自分で見た夢ではないのよ」
我が子に諭され鈴は、やっと自分自身で立ちあがろうと決意するのであった。
大石不二代実行委員長 作者の小島真木さん


万雷の拍手の中おこなわれた清水公演のフィナーレは、出演者、スタッフそれに観客も「涙、涙・・・・」県立清水西高第42回生(旧清水高女、昭和32年卆)同窓生たちの2年間に及ぶ努力が結実した瞬間であった。

劇団「静芸」の人々と演出家伊東幸夫


今も緩やかに流れる巴川、この川面に流れる燈篭は様々な人の営み、喜びと哀しみをのせ、何処かへ流れていく。