実望の作品

【大永五年】
「統秋一回忌に付て追善のため十首の詠歌加一覧,哀憐をもよほし候、仍愚詠の事、斟酌ながら申さるる事侯間、瓦礫をのべ候 」

小事のめぐるやはやき去年の秋のけふの別をおもひいづるに 

いまはたゞ都の風のつてとてもなをなをざりに聞やなすらん  

咲萩のもとのしづくや末の露と消し名残も残ることの葉 

おりおりは我もなれ来てから衣春いく秋の哀そふらん 

おもかげは先たち消て笛竹の音のみ雲井になを残らん 

露ふかみ草のかげにもうけ引やことの葉ごとのけふの手むけに 

よしやいま夢となりても宇津の山現に残るおもかげも哉

秋の夜のながき闇ぢもまよはじなこと葉の玉のかずのひかりに 

夢のからで今はいかでかみづぐきのあとや身にそふ形身見ならまし 

のちせやましゐてのちとふことの葉のいろにやふかきなさけみゆらむ 

人の上にいひはかはせどたれもまた明日をたのまぬうき世かなしも


前年九月二十日世を去った笛の名手豊統秋(ぶんのむねあき)一忌に際し、追悼歌を詠んだ宗長のもとへ実望もまた感懐を歌に託して送ったのである。


「 此秋の九月の尽に、七旬有余の長命なる事を歎て、七十八九月尽といふ事を、我と題して」

 今日ごとのなが月をしも先だつる老にいかなるしづのおだまき

「  此和の御歌、内府浄空、御方、紹僖、氏兼、親高、保悟、珠易 」

くり返し賎のをだまき長月やいくたびけふに逢んとすらん 浄空
老らくのかくてふやどはなが月やけふいくかへり賎のをだまき 御方 公 兄
千年経む八十はこえんけふの秋くり返しくり返し賎のをだまき 紹 倍
さらにへんおひがちとせのなが月のけふのくるるはおしまざりけり  氏 兼
いくとせのなが月のけふをさきだてて老せぬやどのしら菊の花 親 高
もろともに老をぞちぎるけふごとの長月もなを行未の秋   保 悟
老らくのなをゆくすゑもなが月の今日に暮れても賎のをだまき 珠 易


内府浄空はいうまでもなく実望のこと。御方は子息の公兄、紹債は今川氏親、氏兼は今川一門の関口氏。親高は重臣小原氏、保悟は由比美作守。珠易は宗長同門の連歌師である。



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