今 川 状

(原文のまま)


1412年、今川了俊が弟仲秋に書き与えた人生訓です。
現代でも通じる教訓、熟読していただければ幸いです。




今川了俊同名仲秋へ制詞条々

一、不知文道武道終に不得勝利事

一、好鵜鷹逍遥楽無益殺生之事

一、小過輩不遂糺 明令行死罪事

一、大科輩為贔屓沙汰至宥 免之事

一、貧民令沒倒神社極栄華之事

一、椋公務重私用不恐天道動事

一、祖先之山庄寺塔敗壊荘私宅事

一、令忘却君父之重恩猥忠孝之事

一、不弁臣下善悪賞罰不正之事

一、企過乱両説以他人愁楽身之事

一、不知身分限或過分或不足之事

一、嫌賢臣愛侫人致沙汰之事

一、非道而 冨不可羨正路而衰不可慢之事

一、長酒宴遊興勝負忘家職之事

一、迷己利根就万端嘲他人事

一、客来之時構虚病不能対面之事

一、武具衣装己は過分臣下は見苦事

一、好独味不能施人令隠居之事

一、貴賎不弁因果道理住安楽之事

一、出家沙門尤致尊崇礼可正之事

一、分国立諸関令煩往還旅人事

一、臣如知之君又可為同前事




右の条々常に心にかけるへし。弓馬合戦嗜事。武士の道めつかしからす候間、専一に可被執行の事第一也。先可守国之事。学文なくして政道成へからす。四書五経其外の軍書にも顕然也。

然者幼少之時よりも道のたヽしき輩に相伴ひ、かりそめにも悪しき友に不可随順。水は方円の器に随ひ人は善悪の友によるという事実哉。これを以て国を治る守護は賢人を愛。貧民国司は侫人を好よし申伝也。君の愛し給ふ輩を見て、其心をうかヽひしれといふ事也。古語にも其人を不知は其友を見よといへり。

されば己にまさる友を好、己にをとる友をこのまされ。求友須増吾似我不若無いへり。但かくいへはとて、人を選ひすつへからす。是は悪友を愛する事なかれという事也。一国一郡を守身にかきらす、衆人愛敬なくして諸道成就する事かたし。

第一合戦を心にかけさる侍は、人にすかさるよし名将いましめをかれる事なり。先我心の善悪をしり給ふへきには、貴賎群集してくる時はよきと思ふへき。招とも諸人うとみ出入りのともからなきときは、己か心の行たヽしからさる事をしるへし。

さりなから人の門前に市をなすにも二種あるへし。無理非法の君にも一端の恐有て、また臣下無道にして民を貪、謀略のともから申掠によって、権門に立くらす事有り。如比の境をよくよく分別して、臣下の猥を糺し、先蹤を守、憲法のさたいたすへき人を余多めしつかふへきなり。

心得大かた日月の草木を照し給ふかことく、近習にも外様にも山海はるかにへたたりたる被官以下迄も、昼夜慈悲忠罰の遠慮を廻し、其人の器量に随、可召仕者也、諸侍の頭をする人、智恵才覚なく油断せしめは、上下の人に批判せらるヽ事有へき也。只行住座臥仏の衆生を救と諸法に演給ふかごとく、心緒をくたきて文武両道を心に捨給ふへからす。

国民を治事仁義礼智信の一つもかけてはあやうき事成へし。政道を以て科を行て人の恨なし。非義を構て死罪せしむる側は其科弥深し。然者因果其科難遁専一臣下忠不忠の者を分別して、可恩賞事肝要也。莫大の所領を持ても、妻子以下無益の動に私用を構、弓馬無器用にして人数をも不持輩に、所領を宛行事無益たるへし。

諸家の儀先祖より知行不相違といへとも、時の主人の心持によって威勢多少を振事、専ら合戦の道を翫ひ、常に文武二道をわするへからす。是一もかけては貴賎の善悪をしらすして、天下の嘲を恥さる儀口惜かるへし次等也。仍壁書如件


応永十九年二月日
沙弥了俊



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